飲酒と執筆

あまりに執筆捗らないのでメモを残してみる

いい本ですよ。

人類進化の700万年 (講談社現代新書)

人類進化の700万年 (講談社現代新書)


ずーっと前に見かけて、尼損のカートに放り込んで忘れていたのを、たまたま思い出して読みました。私も地質学者の端くれで(最近とても「学者」と名乗れないような日常ですが→これ書くのにちょっといろいろ検索している間に、また大学教員の職務で研究と教育が二律背反と考えているバカ記事を見てしまい胸くそ悪い)、授業でこの手の話をちょっと取り上げたりしたこともかつてあったが、不勉強で最近の進歩などなにも追えてないアホですが、これはそういうアホにもよくわかる、良いガイドかと思います。2005年に出た本で、それからさらに新たな発見があるんでしょうが、執筆時点で最新の発見や議論を取り込もうとしている努力がよくわかります。
個人的に読んで良かったことを列挙しておくと、
・人類進化の系統図がわかりやすく整理されていて、飲み込みやすい。頑丈型猿人とか、なんじゃらほいっだったんだけれど。
・コパンらのeastside storyが必ずしも正しいとは言えない。最古の人類化石のサヘラントロプスは大地溝帯の西側のチャドで見つかった。そのほかにも森でいるお猿さんと人類の共存の証拠は様々あるぞ。
インドネシアフローレス島に小型原人が18000年前まで生き残っていた(2004).すごい話や。同所ではステゴドンも小型化していたそうで「島嶼化」というそうな(北極圏の孤島には4000年前までコビトマンモスがいたとのこと)。
・日本に原人がいて、70万年前まで遡る、と2000年まで考えられていたのは、例の「藤村捏造」によるものである。現在の知見では、4〜5万年(「野尻湖人」もそれくらいか?)ぐらい、ただし石器の証拠に基づくものでちゃんとした骨が見つかっているのは18000年前の「港川人」(沖縄本島)、最古のものは32000年前の「山下町洞穴人」(沖縄本島大腿骨と脛の骨)、本州で最古は18000および14000年前の2層から「浜北人」(静岡県浜北の採石場で脛の骨など)。
・年代測定に1章が割かれていて、化石含有層の年代をどのように拘束するかについて、きちんと説明されている。その上で、年代の不確定性について、数字が一人歩きすることの危険性について述べている。ただ、章の最後に引かれている

お茶の水女子大の松浦秀治教授は,「年代測定はまだ定まった技術というものではなく、様々な仮定のうえに推定の年代を出す科学と言える」と話す。(195ページ)

は、過剰にあやふやなことをやっているような印象を読者に与える、ちょっとミスリーディングなコメントではないか。
・最終章の遺伝子に関わる記述も、色覚、ビタミンC等々、トピカルなことから、系統をたどる上での概念的なことまで、丁寧に述べられている(生物の人がどう思うかしらんが)。

全般的にとてもオススメです。広い題材を扱いつつ、総花的な印象を与えないのは(新書の解説本、とりわけマスコミの人が書いたものにはそのてのが多い)、やはり上に述べた、原理的なことを丁寧に説明しようとしていることと、系統の問題がよく整理されているからだと思う。