飲酒と執筆

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しつこくダーウィン

レベッカ・ステフォフ『ダーウィン―世界を揺るがした進化の革命』大月書店(オックスフォード科学の肖像)

ダーウィン―世界を揺るがした進化の革命 (オックスフォード科学の肖像)

ダーウィン―世界を揺るがした進化の革命 (オックスフォード科学の肖像)

薄い本なので直ぐに読めます.翻訳もOKで読みやすい文章です.ダーウィンの個人の伝記,その当時の学問的情況,進化論のインパクトまで簡潔によくまとめられています.入門書としてはとても良いものでしょう.斉一説やら何やら地質学の情況も出てきて,地質の若者もなんとか山とかばかり言ってないで,こういうことも弁えていると,ちょっと教養ありげでいいんではないか?さて,いくつかメモ.
(1)ダーウィンは父から,妻の親族側(ウェッジウッド家)から援助あり,かつその資産運用で,生活上は何も苦労なく,ただただ自分の研究と執筆に打ち込めばよい情況であった(今時の金持ちでそんなことするやつぁおらんでしょうが).兄貴も医学を勉強したが,体弱く,結局ロンドンで学問的社交界で遊んで暮らした.
(2)まずエディンバラの医学部にはいったが,当時エディンバラでは生物学や地質学などの研究が盛んで,他所からもいろんな学者が集まっていた.当時イングランドは,教会の力が強く,学問的自由がなかったが,スコットランドはフランスの影響もありより自由であった.
(3)ビーグル号で5年も探検したが,帰ってきてからは,しばらくロンドンにいたのち,結婚後数年で田舎に引っ込んで,おおよそどこにも行かず,規則正しい日常を送った.ヨーロッパの大陸に渡ったのもエディンバラの大学にいた頃の夏に一度だけである.
(4)1938年末頃までに進化理論と,自然選択にたどり着いた.それらは以下のような概念・事実・観察によるという

・地球の歴史は数百万年も昔までさかのぼれる(チャールズ・ライエルなどが論証し,ダーウィンの現地調査にもとづく地理学で裏付けられた)・種はたえず変化する(エラズマス・ダーウィンなどの先駆者となる思想家たちが提唱し,絶滅種と現生種のつながりを示す証拠と家畜の新品種の誕生によって立証された)・個体群が親の種から隔離されると変異が起きる(ガラパゴスの鳥)・地球環境と地域の環境はつねに変化しており,生き物は変化する条件に適応しなければならない(地質学および化石による証拠)・個々の生き物はわずかずつ変異をもってうまれてくる(だれでも知っていることで,動植物の品種改良によって立証された)・人生は生きのこりをかけた戦いである(マルサス)・生き物の生きのこりと適応に役立つ変異は子に受けつがれていき,最終的には自然選択をとおして新しい種が進化する(ダーウィン

エラズマス・ダーウィンは祖父.進化の先駆者としてはもちろんラマルクがいる.
(5)説の公表をためらっているうちに,ウォレスから自然選択の論文を送り付けられて,困り果てて,ライエルに相談を持ちかける.ライエルとフッカーが絵を描いて,リンネ協会の例会で共同発表の体裁をとる.この辺は「ダーウィン展」でも詳しく展示されていた(ちょっと前にNHKのテレビのバラエティーで進化を扱っていたがこの部分インチキなことを言っていましたね.所詮テレビの言うことですから).
(6)1860年にオックスフォード大のイギリス学術協会の年会でオックスフォードの主教のサミュエル・ウィルバーフォースが進化論に反対意見を述べる予定があり,ハクスリーとフッカーが擁護するべく準備をしていた.サルと人が近縁と言うことに関連して,ウィルバーフォースが「あなたの祖先にサルがいるというのは,おじいさんの家系ですか,おばあさんの家系ですか?」とハクスレーをからかうと「祖父方にサルがいるのと,知的な有力者でも,その優秀な才能をまじめな科学論争を冷やかすためだけに使う人物がいるのとどちらがいいかといえば,サルのほうがいい」と答えて,大受けであったとさ.
まあ,ほかにもいろいろ有るが,きりがないので,この辺で.