飲酒と執筆

あまりに執筆捗らないのでメモを残してみる

何ヶ月ぶりやら?

いやはや,こまめにブログをきちんとした文章で更新している人は本当に偉いですね.我ながら作文力無いわ.
さて,こんな本読みました.

地球温暖化の予測は「正しい」か?―不確かな未来に科学が挑む(DOJIN選書20)

地球温暖化の予測は「正しい」か?―不確かな未来に科学が挑む(DOJIN選書20)

最近マスコミにも結構露出されている,気候モデルの若手研究者による解説本です,本屋の書架が温暖化懐疑論に埋もれる中,IPCCのAR4にContributing Authorとして参画された立場から,まじめに丁寧に書かれています.
第1章はコンパクトな温暖化問題のまとめ.
第2章は温暖化予測のシナリオの話.
第3章が本書の肝で気候モデルの仕組を,丁寧に具体的に解説されている.具体的,とはいうもののコンピューターがらみの話はほとんど無く(「地球シミュレーター」を使って等々の紹介はありますが)コンセプトの説明です.コンピューターシミュレーションを素人に説明するのは,全くルールを知らない人に,野球かフットボールの解説するようなもんで,なかなか困難なことかと思います.でも,基本方程式から,パラメータ化,チューニング等々素人の我々にも,何となくアプローチの仕方が推測されるような記述がされています.
第4章は予測の具体的な見方,第5章は不確定な予測をどう見るか,であり,いずれも率直に書かれているが,

以上見てきたことをまとめると,「地球温暖化の予測は『正しい』か?」という問いに対する僕の直接の答は,
「前提条件が正しければ,不確かさの中に現実が入るだろうという意味において『正しい』」(197ページ)

が,本の題名に対する回答だとすると(きわめて正直に述べられているのでしょうが),口(文章?)だけ達者な温暖化懐疑論者に対抗できないのではないかと危惧します.その後に,不確かな情報であってもそれに対して意思決定をする必要があるとのべていて,日常的な判断例として,天気予報の降水確率のたとえが出てきますが,やはり問題のスケール・深刻さが違いますからね.
最終章には,IPCCのAR5にもつながるであろう,モデルの将来について述べられています.

いずれにせよ,数多ある温暖化一般書の中では異彩(本線の研究者が書いた解説が異彩なのが変なんだけれど)であり,読んどく値打ちがあります.

いくつかメモ
(1)気候モデルのチューニングのはなし(p. 105〜)こういう面があるから,コンピューターでやってるとはいえ「実験」なんですよね.
(2)20世紀の気温変化を気候モデルがよく説明するが,1940年代の傾向があわない(p. 51)のは,実は観測データに問題があった(p. 125).合わないのは主に海面温度であり(陸地はより合っている),第2次大戦を挟んで,海面温度データの観測数が,米国主体から英国主体に変化し観測方法の差異による系統的な違いがあった.
(3)海面上昇に関しては,グリーンランド氷床と山岳氷河の減少が明らかであったが,南極氷床については,降雪の増加の可能性もあり,海面上昇を引き下げるという考えもあったが,最近は人工衛星による氷床質量の観測などから,減っている,という証拠が出てきた(p. 161-162).
(4)「気候感度の確率」について.IPCCのAR4では気候感度が2℃から4.5℃の間である確率が66%以上であるという(→気候感度:二酸化炭素倍増平衡気候感度.二酸化炭素濃度を2倍にして十分時間が経ったときに地球平均の地表温度が何℃上昇するか.p. 134).この確率は偶然事象の確率ではなく,実際には確定しているが未知である値についての推定値の信頼度(主観確率)であり(p. 183-184),その推定はとても大変(p. 184〜).
(5)解像度よりミクロの減少はパラメタ化して取り込むしかないが,解像度が上がるとマクロの方程式で計算可になるかもしれない(P. 213).真鍋淑郎の「抽象派」と,昨今の「写実派」の喩え(p. 221-222)