飲酒と執筆

あまりに執筆捗らないのでメモを残してみる

ちょっと書きづらいけれど読みましたので

大峰山・大台ヶ原山

大峰山・大台ヶ原山

ざっと通読しました.
あとがきによると「グループ」は1970年から調査を始めて,とあるので40年近く,この深い山を歩いてこられたことになる.第一部はその「グループ」の研究の紹介で,野外での地質調査(とひとことでまとめてしまうのも全く失礼なほど大変な仕事です)と放散虫等の化石による地層の年代決定に基づいて,付加テクトニクスによる紀伊半島秩父帯,四万十北帯の地質解釈を説明するのが主体で,最後の方に中新世の火成活動についても述べられている.放散虫を「ラジオ君」と呼んでみたり擬人法的記述がちりばめられているのが,いかにも地団研的.「ラジオ君」が「ぼくらは」といって一人称で語るかと思うと,三人称になったりで,不徹底.この手の表現手法は,よほど上手くはまらないと,内容に親しみやすくも,内容が判りやすくもならない.学術的内容については,意見があるが,細かいことなので省略.
第二部は第一部の系統的な内容からは外れる,いくつかの博物学的事象についてのコラムが8つの章に分けて述べられている.ニホンオオカミの話や樹木の解説など興味深い話題が含まれる(オオカミ最期の地が鷲家口であることは知ってましたが,それにまつわる経緯がいくらか述べられている).
第三部はさらに,いろいろな歴史から地誌的な話題までごった煮で11章分のコラムが集められている.記述の突っ込みもまちまちだが,もう少し詳しく読みたいと思えるもの(五新線なんて,ものを知らない私は全然知りませんでした)と,なぜこのようなことをわざわざ取り上げているのか疑問に感じるものがあり(その辺の印象は人によって違うでしょうが),もうちとネタをしぼって詳しく書いてよ,と思ってしまいました.
「あとがき」になって執筆者リストがやっとでてきますが,章ごとに誰が書いたか明示すべきだと思いますよ.割と肝心な用語も統一されていないところが散見されるので,すべての章が掲げられている7名の執筆者の合議ではなく,分担執筆と推定されるので.

文中に「私たち」とあるのは大和大峯研究グループ全員を意味します.ただし,本書の作成には約四十年にわたるメンバーとの話し合いをおこなっておりません.十分に意を尽くせなかったことの責めは執筆者にあります.

参加者それぞれが研究成果のどこかに貢献しているという主張は,判りますが,「四十年にわたるメンバーとの話し合い」なんて有り得ないし,この本の責任のみならず功績も執筆者以外の誰にあるのか?と思いますよ.
全体としては,論文には書かないような,見所の紹介といったものを含めて,もう少し地質側の記述のウェイトが大きい方が良かったんではないかと思います.