飲酒と執筆

あまりに執筆捗らないのでメモを残してみる

語りをたのしむべきか.

日本海はどう出来たか (叢書・地球発見)

日本海はどう出来たか (叢書・地球発見)

Sr, Ndのアイソトープの話やら,プレートテクトニクス自体やら解説的内容も多々含まれるものの,やはりフィールド日記にカルテク滞在記,この研究に至るまでの経緯の説明など,能田先生の語りがこの本の肝でしょう.
本の末尾でお嘆きのように,何となくこの辺の研究もODP掘削の結果が出て以降余り流行らない感じはあるものの,「オサムシ」の話を引いておられるように,生物界を含めた日本の自然環境上の一大事件であることは疑いない.「もっと獰猛な研究が行われるべき」なんでしょうね.それで「信頼性の高いデータを地道に蓄積する」のが「一番の早道」とされる.でもそのようなタイプの研究を行うには,今時なかなか大変な環境にあるなあなんて,ぼやいている場合ではなく,やっぱり地道に頑張らんといかん.
ちなみに,末尾にちゃんとreferenceがついていますよん.

ちょっと書きづらいけれど読みましたので

大峰山・大台ヶ原山

大峰山・大台ヶ原山

ざっと通読しました.
あとがきによると「グループ」は1970年から調査を始めて,とあるので40年近く,この深い山を歩いてこられたことになる.第一部はその「グループ」の研究の紹介で,野外での地質調査(とひとことでまとめてしまうのも全く失礼なほど大変な仕事です)と放散虫等の化石による地層の年代決定に基づいて,付加テクトニクスによる紀伊半島秩父帯,四万十北帯の地質解釈を説明するのが主体で,最後の方に中新世の火成活動についても述べられている.放散虫を「ラジオ君」と呼んでみたり擬人法的記述がちりばめられているのが,いかにも地団研的.「ラジオ君」が「ぼくらは」といって一人称で語るかと思うと,三人称になったりで,不徹底.この手の表現手法は,よほど上手くはまらないと,内容に親しみやすくも,内容が判りやすくもならない.学術的内容については,意見があるが,細かいことなので省略.
第二部は第一部の系統的な内容からは外れる,いくつかの博物学的事象についてのコラムが8つの章に分けて述べられている.ニホンオオカミの話や樹木の解説など興味深い話題が含まれる(オオカミ最期の地が鷲家口であることは知ってましたが,それにまつわる経緯がいくらか述べられている).
第三部はさらに,いろいろな歴史から地誌的な話題までごった煮で11章分のコラムが集められている.記述の突っ込みもまちまちだが,もう少し詳しく読みたいと思えるもの(五新線なんて,ものを知らない私は全然知りませんでした)と,なぜこのようなことをわざわざ取り上げているのか疑問に感じるものがあり(その辺の印象は人によって違うでしょうが),もうちとネタをしぼって詳しく書いてよ,と思ってしまいました.
「あとがき」になって執筆者リストがやっとでてきますが,章ごとに誰が書いたか明示すべきだと思いますよ.割と肝心な用語も統一されていないところが散見されるので,すべての章が掲げられている7名の執筆者の合議ではなく,分担執筆と推定されるので.

文中に「私たち」とあるのは大和大峯研究グループ全員を意味します.ただし,本書の作成には約四十年にわたるメンバーとの話し合いをおこなっておりません.十分に意を尽くせなかったことの責めは執筆者にあります.

参加者それぞれが研究成果のどこかに貢献しているという主張は,判りますが,「四十年にわたるメンバーとの話し合い」なんて有り得ないし,この本の責任のみならず功績も執筆者以外の誰にあるのか?と思いますよ.
全体としては,論文には書かないような,見所の紹介といったものを含めて,もう少し地質側の記述のウェイトが大きい方が良かったんではないかと思います.

納得するかどうかは知らんが

ざっと通読しました.

なっとくする機器分析 (なっとくシリ-ズ)

なっとくする機器分析 (なっとくシリ-ズ)

広い意味での分光学的手法による機器分析を広く浅く概観した本かとおもいます.量子化学の基礎的な解説書を書かれている方によるものなので,その方面での定性的な解説もちりばめられていて,原理を押さえるためには一度は量子論を学ばねばならないのか,と思わされますが,なかなかそこまではようやりませんわ.
通読するよりは,折に触れて,必要に応じて章ごとに眺めるぐらいが良いのではとも思いました.私らみたいな全然ばけ学でなくとも一応機械いじったりする機会のある者にとっては得るところがあります.いろんなスタイルの教科書が増えるのは本当によいことで,儂ら爺は手遅れでも,若い人はしっかり勉強してくだされ.

どうも私には...

ネット上でほめている記事をみて,また著者のblogも見て,わざわざ池袋のジュンク堂まで行って買ってきて読みましたよ.結局立ち読みしたときにみた,末尾の「付録:研究者の自己啓発とキャリア形成のための20冊」からうけた微妙な印象そのままの本でした.少なくとも付録は見てから買うかどうか決めた方がいいよ.

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

結局のところ,ビジネスマン向けの自己啓発やら仕事術だのなんだのを著者の視点から纏めた物にすぎない印象である.著者が安定した職を辞して,アメリカに渡った当座に勉強したキャリア戦略の考えに基づくとの事だが,「研究者」相手には,そっち方面の記載が少なくあまり役に立たない.仕事術系の本としては,筆者の具体的な実践例が足らん(プレゼンや英語の章は具体的やんと言う人がいるかもしれないが,それらは別に類書が山ほどあるジャンルで,わずかそれぞれ10ページほどの中で読ませるなら,何か一発すばらしいネタが必要でしょう).また,副題にあるような「根性論」は何も語られない.私が古くさい偏狭な日本人だからかもしれないが,「根性論」と言うからには,もっと血のにじむような(「重いコンダラ試練の道を」ってやつです),熱いメッセージや経験談を期待するんだが,バタ臭いドライな話ばかりでその点でもがっかりである.

まあ,私がこんなにネガティブな感想を持ったのはバタ臭い自己啓発やらなんやらが単に嫌いなだけかもしれん.でもその手のものには正直,教養を感じる事がなく感銘を受けない.「人生には2種類ある:失敗も成功もしない人生と,失敗もするが成功もする人生がある」なんて言葉に勇気づけられるような人は,読むべし.同じお医者様系の人が書いた物で,同じようにある種身も蓋もない内容でも,慶応に凱旋された眼科の先生のそれは,娯楽本として読める(面白い)のでそっちの方が好きです.

小さい本だが話題豊富

このシリーズを読むのは2冊目ですわ.

地球環境46億年の大変動史(DOJIN選書 24)

地球環境46億年の大変動史(DOJIN選書 24)

はじめの辺りぱらぱらと読んで,割とありきたりのことが書いてあるだけかと思いましたが,通読すると,話題豊富でわかりやすく説明されており勉強になりました.
おおむね順に新しい時代に向かって,地球の環境変遷上のトピカルな話題を取り上げてゆく.一応地質系のワタシらは,それらのトピックスのいずれについても,幾ばくかは聞きかじっているんだけれど,だいぶ頭が整理されるところがありました.例えば,3章の大昔の地球と炭素サイクルの話や,5章の氷期の話を主とする気候変動史,6章のスノーボールアースの話等々.
それにしても,傍証を積み上げて復元する,地学系は何でもそうだけれど,古環境の研究もなかなかdefinitiveに決まらないことが多くて大変そうだ.

これは,この手の和書の多くに共通のことなんだけれど,レファレンスが欠けているのがとても残念である.最後に緩うい参考文献(大部分ははっきり言って役に立たないと思う)が列挙されているが,それではだめなんよ.特に本書のような割と新しい話題が取り上げられているものだと,誰のどの論文で提唱された,という情報はとても重要だと思う.主要なものだけなら,注を付けて3ページくらいで収まるでしょう.

二〇〇八年九月、これよりもさらに古い岩石がカナダのケベック州北部で発見されたという論文が英国の科学雑誌『ネイチャー』に掲載された。
(58ページ)

わざわざ,こんな書き方しているのにねえ.

英書なら同様のものでも大概レファレンスを含むそこそこの注釈がついていることが多いから,一般向けの本だから,ということを言い訳にしてはいけないでしょう.このような,本の記述にレファレンスをつけない,という習慣がWikipediaJの駄目さ加減と実は関連していると思いますよ.

いい本ですよ。

人類進化の700万年 (講談社現代新書)

人類進化の700万年 (講談社現代新書)


ずーっと前に見かけて、尼損のカートに放り込んで忘れていたのを、たまたま思い出して読みました。私も地質学者の端くれで(最近とても「学者」と名乗れないような日常ですが→これ書くのにちょっといろいろ検索している間に、また大学教員の職務で研究と教育が二律背反と考えているバカ記事を見てしまい胸くそ悪い)、授業でこの手の話をちょっと取り上げたりしたこともかつてあったが、不勉強で最近の進歩などなにも追えてないアホですが、これはそういうアホにもよくわかる、良いガイドかと思います。2005年に出た本で、それからさらに新たな発見があるんでしょうが、執筆時点で最新の発見や議論を取り込もうとしている努力がよくわかります。
個人的に読んで良かったことを列挙しておくと、
・人類進化の系統図がわかりやすく整理されていて、飲み込みやすい。頑丈型猿人とか、なんじゃらほいっだったんだけれど。
・コパンらのeastside storyが必ずしも正しいとは言えない。最古の人類化石のサヘラントロプスは大地溝帯の西側のチャドで見つかった。そのほかにも森でいるお猿さんと人類の共存の証拠は様々あるぞ。
インドネシアフローレス島に小型原人が18000年前まで生き残っていた(2004).すごい話や。同所ではステゴドンも小型化していたそうで「島嶼化」というそうな(北極圏の孤島には4000年前までコビトマンモスがいたとのこと)。
・日本に原人がいて、70万年前まで遡る、と2000年まで考えられていたのは、例の「藤村捏造」によるものである。現在の知見では、4〜5万年(「野尻湖人」もそれくらいか?)ぐらい、ただし石器の証拠に基づくものでちゃんとした骨が見つかっているのは18000年前の「港川人」(沖縄本島)、最古のものは32000年前の「山下町洞穴人」(沖縄本島大腿骨と脛の骨)、本州で最古は18000および14000年前の2層から「浜北人」(静岡県浜北の採石場で脛の骨など)。
・年代測定に1章が割かれていて、化石含有層の年代をどのように拘束するかについて、きちんと説明されている。その上で、年代の不確定性について、数字が一人歩きすることの危険性について述べている。ただ、章の最後に引かれている

お茶の水女子大の松浦秀治教授は,「年代測定はまだ定まった技術というものではなく、様々な仮定のうえに推定の年代を出す科学と言える」と話す。(195ページ)

は、過剰にあやふやなことをやっているような印象を読者に与える、ちょっとミスリーディングなコメントではないか。
・最終章の遺伝子に関わる記述も、色覚、ビタミンC等々、トピカルなことから、系統をたどる上での概念的なことまで、丁寧に述べられている(生物の人がどう思うかしらんが)。

全般的にとてもオススメです。広い題材を扱いつつ、総花的な印象を与えないのは(新書の解説本、とりわけマスコミの人が書いたものにはそのてのが多い)、やはり上に述べた、原理的なことを丁寧に説明しようとしていることと、系統の問題がよく整理されているからだと思う。

ショボショボ本読んではいるものの,なかなかまとまった感想文を書くのが面倒でほかってあります.最近ネットサーフィン(死語)していて見かけた,新型インフル関係の解説およびコラムをメモってみました.

『日本が感染症対策の途上国である』 厚労省の新型インフルエンザ対策の欠陥を、木村もりよ医師に聞く」(辻広雅文 プリズム+One: Diamond Online)
WHOアドバイザーが語る新型インフルエンザ対策で今すべきこと」(日経トレンディネット 2009年5月25日)
社団法人日本感染症学会緊急提言「一般医療機関における新型インフルエンザへの対応について」(pdf)(日本感染症学会
保健管理センター:新型インフルエンザに関する緊急情報(第2報)」(京都大学保健管理センター009年5月21日)なんか「感染パーティー」みたいなニュアンスにも読めるし,Aソ連型のワクチン効かないと言われているようだし,ええんかいな?
新型インフルエンザ まだ来ぬ「第一波」に備えよ 押谷仁氏(東北大学大学院医学系研究科微生物学分野教授)に聞く」( 週刊医学界新聞 第2842号 2009年08月10日)