飲酒と執筆

あまりに執筆捗らないのでメモを残してみる

文献

Song et al., 2018 Geology,46, 323-326.
Genesis of the world’s largest rare earth element deposit, Bayan Obo, China: Protracted mineralization evolution over ~1 b.y.
中国東北部の世界最大のREE鉱床の起源。monaziteのU-Th年代(幅広い)とNd同位体比.周りにある1.3 Gaのcarbonatiteやmafic dikeとNd同位体比は整合的。1.3 Gaのcarbonatiteが起源、その後のSr-rich, REE-poorな熱水による影響を受けている。

Zhang et al., 2018 Geology,46, 327-330.
Congruent Permian-Triassic δ238U records at Panthalassic and Tethyan sites: Confirmation of global-oceanic anoxia and validation of the U-isotope paleoredox proxy 
九州の上村セクションでP-T境界付近の石灰岩について炭素同位体とウラン同位体の精密測定。end-Permian mass extinction (EPME)はP-T境界より少し先行していて、d13Cの負のエクスカーションでおさえられる。d238Uも大きな負の移動が見られる。
上村セクションの石灰岩は陸源砕屑物をほとんど含まず、Panthalassa海のperi-equitorialな環境で堆積。
ウランは現世海洋で500 kyにおよぶ長いresidence timeを持ち、よくかき混ぜられている。底層の無酸素状態が起こると6価のウランが4価に還元されて堆積物へ取り去られる。その時重いウランが選択的に取り去られるので、海洋のウラン同位体は軽い方へ移動。炭酸塩岩は海洋のd238Uを記録しているが、続成作用時に0.2-0.4‰のズレが起こることが知られている。これを補正して全地球的な海洋の酸化還元状態のproxyとなる。
日本の試料を用いているが、筆頭含む半数の著者が中国人で日本人無し。アリゾナ州立大学のStephen J. Romanielloが推進?
関連 磯崎・太田,2001 ,超海洋中央部での古生代末大量絶滅事件と浅海環境の急変―海山頂部相中・上部ペルム系石灰岩の生層序および岩相層序―
地学雑誌 Journal of Geography 110(3) 427-432 2001
上村セクションと赤坂セクション、M - W 境界での大量絶滅(Upper/Middle Permian)
「高千穂の地層と化石」
Middle-Upper Permian (Maokouan-Wuchiapingian) boundary in mid-oceanic paleo-atoll limestone of Kamura and Akasaka, Japan
By Yukio ISOZAKI and Ayano OTA Proc. Japan Acad., 77, Ser. B (2001) 

Alicia M. Cruz-Uribe  Horst R. Marschall  Glenn A. Gaetani  Véronique Le Roux Geology (2018) 46 (4): 343-346.
Generation of alkaline magmas in subduction zones by partial melting of mélange diapirs―An experimental study
島弧のアルカリ岩をスラブ由来のmélange diapirsで作るという話。出発物質として、ギリシャSyrosの天然のメランジェ物質を使って要るところが売り。合成物質と違ってアクセサリ鉱物の効果を見ることができる。LILEのenrichmentやNb, Taのdepletionも説明できる。mélange diapirs説の文献referenceにいろいろ。細菌注目されているのか?
関連
Tracers of the Slab Tim Elliott (2003) Inside the subduction factory Geophysical Monograph. 138
ダウンロードした。

Yasuhiro Hirai  Takanori Yoshida  Satoshi Okamura  Yoshihiko Tamura  Izumi Sakamoto Ryuichi Shinjo
Geology (2018) 46 (4): 371-374.
Breakdown of residual zircon in the Izu arc subducting slab during backarc rifting
スミスリフトとかのあたりにlow Zr/Y basaltとhigh Zr/Y basaltがあって後者は、高温でslabのresidual zirconが解けたという。


2018年06月26日のツイート

実用的?

究極の文房具ハック---身近な道具とデジタルツールで仕事力を上げる

究極の文房具ハック---身近な道具とデジタルツールで仕事力を上げる

出版社がちがうけれど「究極の」と同じような装丁.
ここまでやりますか?というような極端な話も出てくるが,変に高いブランド物を扱う文具本の多い中で,もっぱら実用性本位で書かれていて,面白く読めました.

断捨離 私らしい生き方のすすめ (DO BOOKS)

断捨離 私らしい生き方のすすめ (DO BOOKS)

昨年の12月にNHKの7時半からの番組でやっていて,その内容も痛いものが多かったんだが(デスクトップのアイコンを消して気持ちがすっきりしました,とか),何となく近所の図書館のOPACで検索してかかったものを,予約してみたの.1ヶ月後にまわってきたので,借りて,ざっと見た.表紙にある「片付けをすれば自分が見える好きになる」やら「私らしい生き方のすすめ」やら,からイメージされるとおりの本です.捨てることに関してもなんか微温的な「気合」の問題に還元されるだけで,何の論理もノウハウもない.そもそも「はじめに」からこんな調子ですよ.いわく「断捨離をはじめたことで,人生で初めてボールペン1本を使い切りました.絞りに絞って,選び抜かれ,サバイバー(生き残り)となったお気に入りのボールペンを使い切った時の喜びといったら、筆舌に尽くしがたいものがあります.同じようにボールペンを使い切ったダンシャリアンの仕事仲間と万歳して喜び合いました」.
 筆者は断捨離して部屋が綺麗になったら,結婚相手が見つかったそうな(実用的).それに関して「片方だけの靴下と恋愛観」なんてコラムがあって,いわく,「私といえば,『結婚?いい人がいれば,できればいいなあ』(中略)『そのうち』,『いつか』という姿勢でした.まるで片方になったまま,次の洗濯をうつろに待つ靴下に対する扱いと,見事なまでに合致していました」.すごいたとえ話です.片方でも捨てないのなら洗濯しろよ.「ちなみに,断捨離をしてから,私の靴下は1足も離れ離れになっていません」.そもそも,普通,ええ大人が滅多に靴下片一方失くしたりしないよ.単にずぼらなだけではないか?「文具王」の同じ靴下を15足買ってみた(なにも考えなくとも必ず対の靴下が見つかる),のほうがずっと清々しい(やりませんが).少なくともノウハウが提案されている訳だし.

 最後のページに小さい文字で「『断捨離』は商標登録です.個人的な体験の発信は自由ですが,商業・営業目的が伴う場合,やましたひでこの許可が必要です」だって.なんでNHKがわざわざ,商売ネタを,商売であることを伏せて(報道の皮を被せて)まで宣伝してやる必要があったのか.

お正月前後に読みました(1)

大火砕流に消ゆ

大火砕流に消ゆ

 著者がオウム云々で有名になられる前に書かれたルポ.ネタは火山の話というよりは,マスコミの話です.どのような経緯で事故が起ったかが述べられ,さらに「定点」で火砕流に巻かれた幾人かのカメラマンの人となりと,「定点」に至るまでの道程が描かれる.マスコミ対応もあって地元の消防や警察,タクシー運転手なども巻き込まれているということや,火砕流に関する知識の欠如(に基づく見込みの甘さ)など批判されることはあるが,基本的には好意的に書かれている.原因が「過熱報道」などと言う言葉で括れるようなものではないとのことである.
 批判されているのは,事故以降のマスコミの対応である.完全に萎縮してしまって,避難勧告地域などに一切入らなくなったり,あまつさえ,少し変があったら,島原から一斉に逃げ出したり,自衛隊に写真撮れだのなんだの情報提供を頼ったりで,まともな報道がなされなくなった.さらにもっと卑怯な事柄として,読売、朝日新聞が相次いで,フリーのジャーナリストが立入り禁止地域内に入ったルポおよび地元のカメラ趣味の人が立入り禁止地域で撮った写真が週刊誌に載ったことを取り上げ,「警察が調査」等々と報道してそうでもなくとも忙しい警察を焚きつけたことが詳しく述べられ,批判されている.前者は取り調べが為されたうえで不起訴に.後者はお咎め無しになったようだが,他にもカメラマンらが取材に入った例があるし,地元の人も必要に迫られて入ることがあるにも関わらず,新聞が大々的に書いたこれら2件を除いて,スルーであったとのこと.筆者は後者の記事を書いた記者に突撃を掛けているが取材拒否,その上司に話しを聞いても堂々巡りでかわされる,ということで,さらに情けの無いことです.
 というわけで,あまり「火山本」ではないが興味深いもので,絶版は残念.でも図書館には結構入っているし,古本も出回っているので,現状では探すのに苦労する情況ではないようです.
 

特に結論無し

おすもうさん

おすもうさん

楽しく読みました.現在の相撲界への取材と,昔の資料の読解を行ったり来たりしつつの15章です.全般的には,相撲界の「なすがまま」の歩みが明らかにされている.そもそも「国技」であることには,特に根拠無く,明治42年に両国に相撲常設館が建設された折に,完成案内状に「角力は日本の国技」と書いてあったので「国技館」という名前になり,それゆえ「国技」になった,という脱力系の経緯が述べられている.その他現代のこと昔のこと様々述べられるエピソードはすべからく「呑気」なものであり,昨今の目を吊り上げての角界批判が如何に的外れなものであるかと言うことがよくわかります.ええやん,適当で.
 十二章の行司の職責なども興味深い.場内放送も行司がやっているそうな.その他いろんな総務系の仕事(移動の際の切符の手配やらなんやらかんやら)も行司がやっていると言うのも驚き.偉い行司が式守伊之助木村庄之助というのは何となく知っていましたが,現在木村家と式守家があるけれど,行司の序列が上がって行くと,木村家の人が式守伊之助になったり,式守伊之助木村庄之助になったりするそうな(立行司のうち式守伊之助がNo.2,木村庄之助がNo.1の名前で,これらは,相撲協会が持つものなのでそうなるとのこと).なんちゅうええ加減さか.普通の伝統芸能系ではあまりありそうに無さそうなことでおます.終章で触れられる,呼び出しの仕事はもっと訳判りません.
筆者が「なぜ?」と言う問いを投げ掛けるのをいやがられる(「なぜ」などと考えたことがない.前からそうなってるから,そう)あたりも笑えます.
ほんまに,ええやん,適当で.

なかなか纏めにくいですが

「地質学の巨人」都城秋穂の生涯〈第1巻〉都城の歩んだ道:自伝

「地質学の巨人」都城秋穂の生涯〈第1巻〉都城の歩んだ道:自伝

分厚さに恐れをなしていましたが,読み出したら一気に読み終えました.面白かったですよ.
遺稿をまとめられたとの事で,文体の不統一のみならず,後半は同じ内容の繰り返しが多いが,止むを得ない事でしょう.
幼年期から高校までの記述が興味深い.田舎での抑圧された生活,父との折り合いの悪さなど,ここまで書きますかという感じ.

父は私にかぎらず,近所のひとや,親戚のひとを罵ることもあったが,その言葉の鋭さや,罵りの表現の多様さは,彼が若い時に文学をやろうかと思った時期があったことの名残のようであった.私は,父の鋭い罵り言葉を毎日聞かされながら育ったので,それを浴びせかけられて嫌な思いをしていながらも,いつとなく,それに少しずつ慣れた.そこで,後年人を批評したりする時に私自身も鋭い言葉を使って,人をびっくりさせることがあった.

私にバカ士,もとい博士を出して下さった,故B先生が,何処かに(見つからない),ゼミ等での罵倒用語は都城先生の受け売りで,でも語彙の豊富さは及びもつかない,と言ったことを書かれていたように記憶するが,その源流がここにありましたか,とくだらないところで感心しました.
ともあれ,生い立ちの部分も,成城高校入学後の濫読,マルクス主義への傾倒なども、個人的な事柄を世の中の流れに埋め込んで述べられているところが,さすがと言わざるを得ず,また,読み出すと本を置けないところでもあります.
大学時代以降の部分は重複も多いが,厳しい筆致で当時の状況,周囲の人々への批判(もちろん良いところは良いと書かれているんだけれど)がなされており,思わずわくわくしてしまいます.
たとえば,小林貞一の日本構造発達史なんてのは、地質学をやっているとちょっとは聞いたことがあるわけですが,その中に含まれる,当時の固定観念と異なる見解を卓見と評価しつつも,その構造論はアメリカ留学時にマーシャル・ケイの独逸流地向斜説に基づくアメリカ大陸の構造発達史を学んだことに触発されたものであり,「日本に帰ってきてから後は考え方の上の進歩がなくなり」,プレート説も死ぬまで認めなかったと.本家のマーシャル・ケイはプレート説が出てきたら,それを取り入れ地史を考え直したのとは対照的で,「これが、三流の学者と一流の学者の違いなのでしょう」.いやー,バッサリですねえ.そのほかにも強烈なのがいっぱいあります.
 坪井誠太郎の人となりの論評も強烈ですが(良いこと3分,悪いこと7分くらいか),印象に残ったのは,教室で買った文献やら,タイプライターやらを,こういうのは教授のために買うんや,と主張して,自分の部屋にがめてしまって,他の人に使わせなかったと.で、後年の坪井誠太郎は全然勉強してなかったので,ただ,がめていて意地悪して他人に使わせなかっただけ,と言うあたりかな.いましたねえ、そんな人.(以下いささか不穏当なので省略)そんなに昔の話じゃないよ.ちなみに坪井誠太郎の良いところとしては,若者が自分の判らないような新しいことに取り組もうとすることを嫌わなかったことが,述べられています.逆にそういうことを嫌い,足を引っ張った人たちの悪口はごまんと出てきます.
 論文を系統的に獰猛に読んで読書ノートを作って云々,は参考になります,なんて書けません.凡人には真似できんでしょう.
 小島丈児伝?の部分は前章までの繰り返しの当時の東大岩石学の様子に引き続き,幾人かの先人の仕事に対する評伝があり,小島丈児自身に関する記載は少なく未完のようである.広島大学で構造地質学の強力な学派を形成した,ということを高く評価する記述になっている.私らが学生時代に微妙に関係があった広島学派?に対する上記B師の態度には正直に言って違和感があったのだが,この辺の大先生の評価をひょっとして引きずっていたのか?と言うのは邪推というものでしょうか.
 第7章「私の道」は岩石学やってる人間は見ておくべきものでしょう.第8章はご本人が書いたものでないのでパス.図を含めて正直やっつけ感は否めない.
 初めの「総解説」をみて何じゃこれ、と思って買うのを止めようかと一瞬思いましたが,買って読んで良かった.編集している人の思い入れ,のようなものが現れているなかに違和感を覚える箇所は少なくないが,埋もれてしまいかねない原稿を公にされた功績を讃えるべきなのでしょう.

懇切に書かれている

ほんとうの「食の安全」を考える―ゼロリスクという幻想(DOJIN選書28)

ほんとうの「食の安全」を考える―ゼロリスクという幻想(DOJIN選書28)

ADIやら(これくらいは知ってましたが)ARfDやら略語で書かれる概念がガーッと出てきて,懇切に書かれているものの,真面目に追うと時間がかかります(山ほど出てくる略語は巻末に一覧が付されています).そんな訳で,結構斜めに読み飛ばしてしまいましたが,結局「ハザードと暴露の組み合わせがリスク」であり,暴露量は一般に極めて低い(諸基準値は相当に余裕を持って定められているし)ので,「現在の日本で食品添加物残留農薬が食の安全にとって問題だということを言っている専門家は信頼するに足りません(193ページ)」し,「実態に即した対応を考えるならゼロトレランスという考え方はとり得ないのです(79ページ)」ということが,詳しく実例に沿って説明されております.結局はいろんなものを食え,という結論です.選択肢が多くなるとリスクが分散する(137ページ)からです.そのリスクは,もちろん天然物の中にも潜むものです.
個別の話では,魚からくるメチル水銀の国による違いや,ビタミンのがん予防の話(臨床試験結果のまとめの表が出てたりする)あたりが興味深かったです.
でも,食の情報に惑わされるような人が「化学同人」の本読むと思えないなあ.情報を流す人が,読んどかんといかんのでしょうが,なかなか...
とまれ,このシリーズ結構面白い本が多いので(これ28番ですから,30冊ぐらい出たわけか),続いてほしいものです.